2020
14
Mar

VHS

目の覚めるようなピンクの部屋にサイバーな色味のブラウン管テレビ。CASTELBEATの2ndアルバムとなる本作は、ジャケットデザインがその音楽性を全て物語っているといっても過言ではない。それはオルタナティブやポストパンクとしてのモードを踏襲しながらも、微かにポストヴェイパーウェイブの香りを残す、メランコリックと”AESTHETIC”=審美性を追求した、白日夢のような音楽性だ。

10曲で合計約30分と、比較的短い曲が詰まったこのアルバム。インストゥルメンタルの1曲目、『Research』を抜けるとリードトラックの『Tennis』が始まる。ギターの後ろからぼんやりと立ち上がるJosh Hwangの歌声は、どこか頭の奥底から湧いてきているかのような音像だ。その後は煌びやかなギターが耳に残るトラックたちが続くが、特にラストの『Video Tape』は、どこか本アルバムのEDを思わせるような佇まいで、聴くたびに心が切なくなる。

全体として音楽的コンセプトが綺麗にまとまっている本作だが、一辺倒かといわれるとそうではない。例えば4曲目の『Wasting Time』は、シューゲイザー的な要素が垣間見えるナンバーだ。1stアルバム、『Castlebeat』(セルフタイトル)の1曲目でもシューゲイザーを基調としたトラックを発表していた(その名もずばり”Dreamgaze”)ところを見るに、こんなサウンドもまた彼の十八番なのかもしれない。また、5曲目の『Town』や7曲目の『Zephyr』のようにベースを聴かせるナンバーもあり、よく聴くとバラエティに富んだ構成となっている。

彼の詞の世界観もまた、本アルバムの魅力といえるだろう。4曲目の『Wasting Time』では唯々家にこもって日々の退屈をしのいでいたり、続く5曲目『Town』では、変わり映えのない町の中をふらふらと徘徊している。どこにも行き場のない自分の所在を持て余している感覚は、無気力に支配されている今という時代に強く共鳴している。

冒頭彼の音楽をポストヴェイパーウェイブと評したが、それはまた彼の詞にも言えるかもしれない。文明の発展に翳りが見える中で、ヴェイパーウェイブの思想は80sにフラッシュバックすることで、華やかな未来を一時的に夢見ることができた。だが、それが描き割りの情景であるとやがては認めなくてはならない。そんな諦念に直面してなお生きていかなければならない我々の琴線に、彼の詞は触れていると言えるのではないだろうか。

ドライビングソングとして流してよし、家にこもってじっくり聴き込んでよしとシチュエーションを選ばないこのアルバム。おまけに約30分というサイズ感も絶妙で、つい2回、3回と通しで聴いてしまう。音楽プレイヤーに常に忍ばせておきたくなる1枚だ。

この作品が好きなら

『MOON』

SSW、ミズノリョウトによるソロプロジェクト、GeGeGeの最新アルバム。本作品と同様ローファイサウンドを基調に、レトロスペクティブな雰囲気を漂わせている。時にコズミックなその音楽は、遥か遠くの惑星と交信をしているかのよう。

『Jersey Devil』

Real Estateでも活躍中のギタリスト、Matt Mondanileによるプロジェクト、Ducktails。繊細かつドリーミーな雰囲気にダウナーな歌声が堪らない。本作は全曲ハズレなしの名盤だが、中でも『Map to the Stars』と『Wearing a Mask』はマストで聴きたい名曲。

 
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