2月、新進気鋭のSSW、松木美定の標記シングルが配信開始となった。本シングルは、熟語の並ぶソリッドな題名とは裏腹な、極めてしなやかで色鮮やかな2曲構成。既に耳の早いリスナーの間で話題の本作について、1曲ずつ紹介していきたい。
1曲目、『実意の行進』について。この曲を耳にしてまず感じるのは、そのトリッキーなドラムプレイ、ないしは独特なリズムではないだろうか。軽やかな指運びのピアノも相まって、ボーカルを抜いてしまえば、これはほとんどモダンジャズとしての様相を呈している。だが、そんなジャジーなフレーズたちに彼の歌声が乗ると、それは途端にポップスへと変容する。それも、力技ではなく、必然性のある調和によって。まさにシングルの1曲目を飾るにふさわしい、華やかな1曲だといえる。
ちなみに、この曲のアウトロにはスコットランド民謡、”Comin Thro the Rye”が引用されている(本曲に関する彼のブログを参照: https://biteimatsuki.hatenablog.com/entry/2019/04/08/185933)。引用の仕方や演奏にも外連味が無く、彼の曲構成全体にピッタリと嵌っている。また、昨年発表されたと思われるデモ音源では、現在のアレンジに比べてバックの演奏は控えめで、その分ピアノが前に出たような仕上がりとなっている(https://www.youtube.com/watch?v=0eFwsVnfEgs)。これはこれで良いアレンジだが、やはりボーカルと演奏が混然一体となって世界観を創り出している今のアレンジの方が、この曲の真骨頂を発揮している様に思われる。
実をいうと、1曲目よりもシングルB面のこの曲の方が、個人的に好きで何度も聴いている。『実意の行進』とは打って変わって、ストレートなスイングがミニマルな展開で纏まっている。と思いきや2番が終わった途端変調して、ワルター・ワンダレイ的オルガンプレイを通過し、サックスによるドライブ感のある間奏を挟んで、最後はメインフレーズに収束。1曲目がリズムやフレーズで魅せる曲なら、この『焦点回避』は構成で魅せる、そんな曲といえるだろう。
こちらについても裏話があり、実は元の作曲ではインストであり、Bメロがあったとのこと(参照:https://biteimatsuki.hatenablog.com/entry/2020/02/19/044006)。確かにBメロがあったほうが、曲全体の展開としてはスムーズになりそうではある。一方で今のAメロ→サビという反復は、曲のスイング感と相まって実に軽快だ。せっかくなら、是非ライブでBメロの組み合わさったバージョンも聴いてみたくなる。
本シングルは2曲とも非常に凝った構成で、彼の作曲のバックボーンになっているジャズのエッセンスをふんだんに感じられる。だが、そんな彼の変幻自在なサウンドの根底にあるのは、徹底したポップスへの執念だ。だから、爆発する彼の才能を目の当たりにしても、聴き手はひるむことなく彼の音楽の本質に触れることができる。「自分の方法で表現する」と「聴き手の心を掴む」を同時に達成すること、それを平気でやってのけてしまうところが、彼の音楽の魅力の本質なのかもしれない。
なお、この『実意の行進』については、4月に7inchでヴァイナル化するとのこと。本人手書きのアートワークも相まって、是非手元に置いておきたい1枚となりそうだ。
この作品が好きなら
『Orangeade』
2018年、大沢建太郎(北園みなみ)、佐藤望、黒澤鷹輔によって結成されたスーパーバンド、Orangeadeのセルフタイトル。メンバーそれぞれが高い作曲・アレンジセンスを有しているため、どの曲もポップスとしてのクオリティは秀逸。最近は大沢建太郎が脱退、シンリズムが加盟して「Conte」とバンド名を改名して活動中。
『sweet hereafter』
SSW、新川忠の1stアルバム。スローなアルペジオやオルガンの音色は、映画のワンシーンを彷彿とさせる。中でも『ベリーダンス』と『カーニバル』は、ジャズオルガンファン必聴のナンバー。

