2020
11
Feb

ヘビトンボの季節に自殺した五人姉妹

日本の六月は雨が多く、じめじめとした暗いイメージが強いが、本作に抱いたイメージは眠たくなるようなそれでいて時折強く輝く、曇り時々晴れ模様だ。

ソフィア・コッポラにより映画化もされている本作は、1970年代アメリカに生きるリスボン一家の崩壊を「ぼくら」の目線から振り返っている。

可憐な五人姉妹の謎めいた生活を「ぼくら」は憧れも交えて見つめ続けるが、そんな彼らの視線は異常なまでに細かくも本当に見たい姿を捉えきれないもどかしさを感じさせる。

彼らを通して垣間見る美しき五人姉妹は不満、不自由、不十分に満ちている。抑圧された彼女たちが、隠れてタバコを吸い、セックスに興じる姿は悲しく痛々しいが、そこに一瞬の自由の輝きがある。

恐らく多くの人が、彼女たちの年頃に似たような経験をしたのではないか。校則によって服装検査があったり、親からは門限を定められ友人よりも早く帰る羽目になったり。かくいう私も皆が持っている携帯電話を持たせてもらえず親に反抗していた記憶がある。そして気になる子から目が離せなくなることが(双眼鏡や望遠鏡を使い出す「ぼくら」ほど執着を持ってはいなかったと思うが)。

ユージェニデスのこの作品は思春期のアンバランスさを見事に描いているが、この作品はそれだけでは終わらない。

この姉妹に対する両親、特に母親からの異常なまでの干渉。気持ち悪いほど細部までみつめる「ぼくら」の視線。そして崩壊していくリスボン一家の姿や街の様子。そしてそれを報じるメディア。どうやらただの思春期の少年少女を描いた物語ではないと感じるはずだ。

巻末の解説にもあるが、ユージェニデスは1970年代にデトロイトを中心に崩壊していくアメリカの姿もリンクさせて描いている。確かにその時代の事象や文化を匂わす描写は沢山ある。

この本は「ぼくら」の目線を通して、姉妹たちに共感を覚えるような読み方もできれば、俯瞰の形で「ぼくら」を眺めアメリカの崩壊を感じることもできるだろう。

この本が好きなら・・・

『ペンギンの憂鬱』

家族の崩壊=国家連合体の崩壊を面白おかしく描いた小説。新潮クレストで出版されている。ペンギンが愛おしい。

『崩れゆく絆』

社会構造と個人の崩壊を描いた作品。文庫化しており、比較的買いやすく読みやすい。アフリカ文学に興味を持ったら是非。

 
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