今までの自分を変えてしまうような弩級の作品が世の中にはあり、本作はその弩級の作品だ。まずハードカバー700ページ弱の文量からして弩級だ。普通であれば読む前に怯み、読んでいる途中に残りページの重さにげんなりしてしまう物量だが、思った以上のリーダビリティの高さでスラスラと物語にのめり込んでしまう。パワーズと木原善彦先生の組み合わせは『幸福の遺伝子』、『オルフェオ』に続き3作目だが、本作も素晴らしい作品だ。
まず本作の構成だが、”根”、”幹”、”樹冠”そして”種子”の章に分かれており、”根”の章において物語の主要人物のストーリーが語られる。栗の木の写真を撮り続けた一族の起こりとその末裔、菩提樹に命を助けられた帰還兵、ドラッグに溺れ感電死しかけた果てに木に呼ばれる女学生・・・全く別々の人生を歩んできた人物が木を中心に混ざり合い、幹となり樹冠となる。
そんな彼らが形作る物語はまさしく木を守る戦いの物語だ。木によって呼び寄せられた彼らはそれぞれの方法で木々を守ろうとする。そしてその闘争の中で、攻める方も守る方も活動が過激になっていく。彼らに闘争の果てに何が待っているのか、どの様な種子を残すのか、気が気でなくページを手繰り寄せてしまう。彼らの産み出す種子は作品を通し、読者の心で新たな苗が芽吹くだろう。
自生する木々に目を向けると、多様な生物が複雑に絡み合い共同体を形成していることにはっとさせられる。そんな命のサイクルの一員に私もいるんだという思いを持ったのはいつ以来だろう。少なくとも私には新しい苗が芽生えている。
この本が好きなら
『変身物語』
『オーバーストーリー』の重要人物であるパトリシア・ウェスターフォードが愛読するこの物語を読むと、人が木々や動物に変身することの多さに驚かされる。月桂樹へと姿を変えるダフネ、槍で貫いてしまった鹿を哀れみ糸杉となったキュリパッソス、死してなお寄り添いあいたいと神に願い、死とともに木へと変わったピレモンとバウキス。人類が培ってきた文化の中でも屈指の傑作なのは間違いない。
『オルフェオ』
パワーズ×木原先生の2作目であるこの作品では、『オーバーストーリー』同様に分厚くも読みやすい傑作だ。微生物の遺伝子に音楽を組み込もうとする現代芸術家がバイオテロの容疑にかけられ逃避の旅に出る物語だ。この作品だけでなく、『オーバーストーリー』や『エコーメイカー』といったパワーズの作品にはテロに振り回される人々の姿が描かれており、同時多発テロがアメリカに残した爪痕の大きさが窺える

