2020
24
Feb

JINJI KIKKO

私感ではあるが、2010年頃のポストロックシーンを皮切りに、東アジア~東南アジアの音楽シーンでは次々と優れたミュージシャンが生まれている。例を上げれば枚挙にいとまがないが、台湾高雄のポストロックバンド、Elephant Gym(大象體操)やインドネシアのシティポップ4人組、ikkubaru、韓国出身のHYUKOHなど、それぞれの分野においてアジアの音楽がプレゼンスを発揮していることは確実だ(国境で音楽を語るのはややナンセンスに思われるが、ここはどうか目をつぶっていただきたい)。

今回紹介する台湾は台北発のSunset Rollercoaster(落日飛車)もまた、ここ数年のAOR界隈を語るうえで欠かせないバンドだ。一時の活動休止もあったものの、2009年の結成以来、その圧倒的音楽センスと演奏力の高さで着実にファンの心をとらえている。2018年には欧米のワールドツアーまでこなしており、まさに押すに押されぬ存在となっている。すでに2枚のフルアルバムをリリースしている彼らではあるが、本記事では中でも彼らの代表的1枚といえる1st EP、『JINJI KIKKO(金桔希子)』を紹介したい。

本EPの魅力については、多くを語らずとも1曲目の『Burgundy Red』から感じられるのではないだろうか。ややいなたい泣きのリフを抜けた先に続く、80sのフュージョンを彷彿とさせる耽美的なキーボードの響き。甘く柔らかに紡がれる、Vo. 国国の歌声。それはまさにバンド名にもあるような”Sunset”、夕暮れのような胸を締め付けるようなノスタルジックなサウンドだ。そんな彼らの音楽の真骨頂は、本EPの目玉にして彼らの代表曲である2曲目、『My Jinji』にて爆発する。

夕凪の海を漂っているかのような浮遊感を纏って曲はゆったりと進行していくが、着実に彼らの世界観は展開を続けていく。グルーヴをくみ上げていくリズム隊。間奏で嘶くギター。そして音のうねりの中に飛び込んでくるフルートの音色。そう、この曲のアウトロ真髄は3分以上も続く壮大なアウトロにある。リフレインの中で目まぐるしくあらゆる音色が美しく折り重なっていく情景は、フレーズを繰り返すほどに終わることが名残惜しくなってくる。「このまま永遠に続けばいいのに」という気持ちが湧きおこってくるころには、あなたもすっかり彼らの虜だ。3曲目の『New Drug』のスモーキーなサックスプレイを堪能し終わったころには、きっとまた再生ボタンに手が伸びるはず。

一度彼らの演奏を生で見たことがあったが、その時のパフォーマンスはこのEP以上のものだった。My Jinjiでは我々の望みどおりアウトロは倍の長さにエクステンドされ、更にサックスまで参戦するという大盤振る舞い。曲の後半からどんどんギアが上がっていく曲を武器にしているバンドなんて、昨今めったに見ないのではないだろうか。このEPで興味を持った方は、是非ライブに足を運び、その実力の高さを感じてほしい。

※なお、最近My JinjiのMVが公式に上がったが、中々パンチのある仕上がりなので気になる方は是非チェックされたい。(コメント欄では「グリーンスクリーンの乱用」と専らの評判だ)

この作品が好きなら

『Cassa Nova(半熟王子)』 

本EPリリースから2年、満を持してリリースされた2ndアルバム。My Jinjiを1枚のアルバムに拡張したかのような構成。1曲目の『Almost Mature ’87』から、往年のChicagoを彷彿とされるメロウな曲が目白押しの1枚となっている(Youtubeにフルアルバムで視聴可能)。

『Dear』

同じく台湾出身のオルタナティブロックバンド、Sweet John(甜約翰)のアルバム。ポストロックを基軸としたサウンドはどれも完成度が高く、1曲目『Missing You(失蹤人口)』や6曲目『Those Things I Kept(留給你的我從未)』、9曲目『Rain Onto the One(降雨機率)』などキラーチューンが盛りだくさんの1枚。

 
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