2021
29
Apr

緑の光線

なんてういういしい大人の話。「大人とは、子どもの夕暮れではないか」という、誰かの忘れられない言葉を思い出す。

わたしたちは夢中で大人になって、自由な一歩を踏み出したと思った次の瞬間にはもう、数々の選択を迫られてしまう。人生の詳細。そんな大事なことはすぐには決められないし、まずはたくさんのことを知りたい、見てみたい、感じ取れるひとになりたい…。だけど気がついてみれば、周りのみんなは先を行っている。ひとりだけ置いて行かれている気がして、焦ってしまう。寂しくなってしまう。本当は、選んでも選ばなくても大丈夫なのに。

デルフィーヌも、心の奥底ではわかっているのかもしれない。でも、自分に言い聞かせる「大丈夫」よりも、現実世界の加速具合が圧倒的で、素直になれない。涙なんか流したくないし、卑屈なことも言いたくない。だけど、頑張り方も、幸せになる方法もわからない。わたし、知り合いに寂しいって言えないくらい、寂しい人間なんだっけ。

バカンス先の緑あふれる地で、密やかに涙を流す彼女はとてもちっぽけだ。ちっぽけで、愛おしい。だって、大人は子どもの夕暮れかもしれないから。切ないし、日は沈みかけているけど、わたしは夕暮れのなつかしい寂しさが好きだと思う。紛れもないわたしの時間。わたしの寂しさだけが漂う、特別なとき。

デルフィーヌにとってのラッキーカラー緑は、豊かに生い茂る木々の緑よりも、これから消えゆく、はかなくも鮮やかな光線だった。「清潔さを保っているから、気力を失わないでいられる」。そう言った彼女の清潔さは、あの遠い光にどう映っただろう。あの光を瞳に宿して、彼女は身軽になれたのかな。

美しい緑の光線を、すがるように信じぬく。

彼女の涙は、もっと美しい。

 
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