2021
5
May

写真家 ソール・ライター 急がない人生で見つけた13のこと

心配することはゆるされていない。少しの写真を撮ることはゆるされている。心配で眠れないのはだめだ。

彼が自分に与えていること、自分から遠ざけていることが、ひとつひとつ、綺麗な小石みたいにきちんとしていて、気持ちのいい重みがある。

ひとつの街で、長く日常の光る瞬間を取り続けるライター。街を、自分の人生の今をあいしているのがわかる、カメラ越しの彼の瞳。見慣れているはずの景色に、ハッとさせられる。こんなに美しい瞬間が、たしかに「ここに」存在したんだと気づいたとき。なんてすてきな世界に、わたしたちは生きているんだろう。

ふらりと写真を撮りに行くライターと近所のひとたちとの親しみのこもった会話も、愛くるしい子どもたちも、みんな自然で穏当に心が和む。時折映り込む、彼の飼い猫もとても可愛らしい。ライターの話しぶりから伝わる謙虚さとお茶目な笑顔。「優しい」をひとに感じ取らせてくれる空気感。

先だった奥さんが、ライターからの贈り物の包み紙をすべて捨てずにとっておいたのがわかったとき、本当に心がくすぐったくなった。そして、おかしそうに、でもうれしそうなライターの「これを作品だと思ってたんだな。大間違いだ。これは・・・・・・」というつぶやきがひそませる、一生消えない彼らふたりの日々の余韻が、少しわたしを寂しくさせる。

彼の家庭では知識や業績が重んじられていて、優しさなんて大事ではないと言われながら育てられたそうだけど、ライターはやさしくあること大事にしている。成功を収めるよりも、お互いに大事だと思える、careしたいと思う、そしてそう思ってくれるひとがいる人生を彼は選んだ。美しいものを追いお求めるのは良いことだという人生観を持つことを、彼は自分自身に「ゆるし」ている。

「私の写真の狙いは、見ている人の左耳をくすぐることだ。すごくそっと」

 
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